東京地方裁判所 昭和46年(ワ)1052号 判決 1973年5月11日
原告 株式会社 裕生ビル
右代表者代表取締役 三田正義
右訴訟代理人弁護士 吉澤祐三郎
被告 株式会社 太平洋テレビ
右代表者代表取締役 清水昭
右訴訟代理人弁護士 水谷昭
同 田原昭二
同 金子健一郎
主文
一 本件の訴を却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対して金一〇〇万円およびこれに対する昭和四六年二月一八日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告はもと別紙物件目録記載(一)の建物(以下本件建物という)を所有し、右建物の中にある別紙物件目録記載(二)、(三)の部屋(以下それぞれ本件(二)貸室、(三)貸室という)を被告に賃貸していた。
(二) 原告は、原告が被告との間の(二)、(三)貸室の賃貸借契約を解除したことに基づいて、被告に対し右両貸室の明渡と明渡遅滞による損害賠償とを求め、昭和四四年三月三一日東京地方裁判所に訴訟を提起し、同裁判所昭和四四年(ワ)第三二二四号貸室明渡請求事件)、右訴訟については、昭和四四年一二月二五日、次のような主文をもって原告勝訴の判決の言渡があった。
主文
被告は原告に対し別紙物件目録(二)、(三)の貸室を明渡し、昭和四三年八月一日から(二)の貸室明渡ずみまで月額金一二万二、八五〇円の割合による金員を、昭和四三年九月一日から(三)の貸室明渡ずみまで月額金一〇万円の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行できる。
(三) 被告は、昭和四五年一月一三日、右判決について東京高等裁判所に控訴を提起する(同裁判所昭和四五年(ネ)第九五号事件)とともに、右強制執行の停止の申立を行い、そのころ同裁判所は被告に金一〇〇万円の保証を立てさせて強制執行を一時停止すべきことを命じた(同裁判所昭和四五年(ウ)第二四号事件)。
(四) 被告の提起した右控訴については、昭和四五年七月二四日控訴棄却の判決言渡があり、右判決は確定した。
(五) 東京地方裁判所は、右強制執行停止事件における担保供与者である被告の申立により、担保権利者である原告に対して、権利を行使すべき旨を催告した(同裁判所昭和四六年一月一九日附催告書、昭和四六年(日記)第二九号、昭和四六年(モ)第四五九号)。
2 原告が右の強制執行の停止によって蒙った損害は次のとおりである。
(一) 原告は、右明渡訴訟の提起より先、本件建物について江戸川信用金庫および東武信用金庫から任意競売の申立を受けていた。強制執行の停止がなく、原告が右強制執行を完了していたならば、原告は被告所有の有体動産の競売による売得金、および被告の明渡の後の本件(二)、(三)貸室の他への賃貸によって得る保証金敷金収入を合せて少くとも金一〇〇〇万円の金員を取得することができた筈であり、かつ競売回避に必要な融資を受けられる筈であった。被告は、以上の事情を知りながら、かつ、充分な控訴理由もないのに控訴し、控訴権と執行停止申立権を濫用して、前記強制執行停止の申立を行い、その結果執行停止がなされたため、昭和四五年五月一九日、本件建物は訴外統和殖産株式会社外一名によって競落されてしまった。
(二) 原告が本件建物を所有していたとすれば、その貸室料として月額金一〇〇万円、年間金一二〇〇万円の収入があり、これより、融資金予定額金四〇〇〇万円に対する年一割の利払金四〇〇万円と必要経費金四〇〇万円とを差引いても、年間金四〇〇万円の利益があった筈である。そして、本件建物の耐用年数は五〇年である。被告の執行停止により、原告は以上の得べかりし利益の喪失という損害を蒙った。
(三) 本件建物の時価は金八八、九四三、〇〇〇円であったが、競落価格は金四五、五四〇、〇〇〇円であり、原告は、右の差額、金四三、四〇三、〇〇〇円の損害を蒙った。
よって、原告は、被告に対して本件強制執行停止に基づく損害賠償請求権を有するから、右権利の行使として本訴を提起し、第一次的には請求原因第2項(二)の損害額の中より、第二次的には同(三)の損害額の中より、金一、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年二月一八日より完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 第1項は認める。
2 第2項は、原告主張のとおり、競売の申立、執行停止、競落のあったことは認めるが、その余は否認する。
(証拠は本件記録中証拠目録記載のとおり)
理由
請求原因第1項は当事者間に争いがない。ところで、本件の前記訴訟のように、建物の一部である貸室の明渡を求める請求権が仮執行宣言付第一審判決によって認容されながら、第二審で執行停止決定によって執行を停止された場合、執行停止によって蒙る原告の損害は、原則として、右執行停止期間中の使用料相当の損害金であると解すべきであり、それは、とりも直さず、貸室の明渡遅滞による損害額と同一である。そこで、既に本案訴訟において、明渡と共に、明渡遅滞による損害賠償をも請求しており、その認容判決が確定した場合には、執行停止による損害賠償請求権について別訴を提起するまでもなく、担保権者は右本案の確定判決に基いてその認容額の限度において担保権を実行することができるというべきである(大決昭和一〇・三・一四民集一四・三五一参照)。
本件において、原告は、既に本件(二)(三)の貸室の明渡遅滞による損害賠償請求権についての認容確定判決を有しており、右判決によって認められた一ヶ月当りの損害金は金二二二、八五〇円で、執行停止時から控訴審判決時までの執行停止期間は六ヶ月を下らないから、右期間中の損害額は優に金一〇〇万円を超えていることは計数上明らかである。しかるに、被告の提供した保証金は金一〇〇万円である。従って、原告は右確定判決によって保証金全額に対して担保権を実行することができる訳である。
このような場合に、右確定判決と同一の目的を達するため、更に本訴を提起することは、原告において不必要であり、訴の利益を欠くものと云わなければならない。よって、本件の訴を却下することとする。
訴訟費用の負担につき民訴法第八九条適用。
(裁判官 武藤春光)
<以下省略>